まめもやしの映画短評

原稿用紙1枚分の映画の感想をつづります。

『ハウス・オブ・グッチ』

⁡「キャスト・オブ・リッチ」な極上エンタメ

『ハウス・オブ・グッチ』ポスター

GUCCI」の商品を買ったことがない私にとって、一族の顛末など知るよしもなかったのだが、まるでフィクションのように楽しめる物語だった。

しかしながら本作の最たる魅力は、なんと言っても豪華俳優たちの演技合戦だろう。アル・パチーノを筆頭にしたオスカー俳優たちのクセの強い演技に魅了される。

しかし、彼らを差し置いて圧倒的なのがレディー・ガガ。野心家の一言では片付けられない「アウト・オブ・コントロール」な妻パトリツィアを熱演した。

豪華な装飾と衣装のきらびやかさは、見る人が見ればそれだけでも楽しめるはず。ブランドに無縁な私ですら、グッチというブランドに人知れず興味が湧いていた。

80歳を超えてもなお新鮮な映像をみせてくれる巨匠リドリー・スコットには頭が上がらない。演技・美術・ロケーションともに極上のエンターテイメントとなっていた。


【ネタバレ感想】『竜とそばかすの姫』は細田守によるディズニー的『天気の子』だった。

細田守の夏が来た。

 

新作『竜とそばかすの姫』で描く世界は、インターネット上の仮想空間、<U(ユー)>。

 

この情報で、なんとなくサマーウォーズのような世界を描くんだろうと思っていると、かなり面食らうことになる。

 

サマーウォーズの仮想世界<OZ(オズ)>から、ビジュアル面で圧倒的な進化を遂げてはいるのだが、伝えたいメッセージのエッジと、ストーリーの豪腕さが中々に強烈でクラクラしてしまった。

 

さらには、美女と野獣のしっかり目なオマージュまであるときた。

 

恐らく、多くの人が、舞台となる<U>の世界について気になってしまい、置いてきぼりをくらうだろう。

 

<U>の世界で追われる竜。 自警団「ジャスティス」なるものが登場し、「アンベイル」という利用者の姿をあぶり出す力で竜の正体を暴こうとするのだ。

 

本作では、しきりに「オリジン」「あなたは誰?」というように、匿名の世界でリアルな利用者を知りたいという欲求がつきまとう。

 

これまでにもインターネット世界をテーマに描いてきた細田監督。そこには監督のIT技術の進化に対する希望があるのだと思う。しかし、本作ではそれによる弊害への表現が目立っていたようにも感じた。

 

 

 似た映画として、スピルバーグ『レディ・プレイヤー・1』が挙げられる。そちらは「ゲーム(仮想世界)への愛情を示しつつ、現実世界も頑張れよ」というメッセージを感じたが、本作においては後者が強めな印象を受けたのだ。

 

(あえて?)舞台を詳しく描かずに、ツッコミ所が満載にしてまでも監督が伝えたかったことを考えてみると、それは「言うは易く行うは難し」だと思う。

 

主人公のすずには、幼少期に母親を失うという背景がある。母親は、増水した川に飛び込み、見ず知らずの子どもを自分の命に代えて救ったのだ。

 

すずにとって、母親のその行動はずっと理解ができないままだった。

 

そんなすずが、竜の正体と現状を知り、「助けたい」と思って行動する。

 

すずの行動は無謀かもしれない。それでも直接会いに行き、彼らを抱きしめた。それは紛れもなく、かつての母親の行動とリンクするのだ。

 

竜たちの現状を知れば、助けたいと思う人は多くいるだろう。しかし、実際に行動できる人はどれくらいいるだろうか。

 

ネットが匿名であることは、個が発信力を持つことでもある。一方で、あることないことを、気軽に好き放題言うことだってできる。

 

自分の意見が拡声器のように瞬く間に拡散することも、誰かに助けを求めることも容易な時代になった。そんな時代で、あなたは誰かのために手を差し伸べることができるだろうか。

 

細田守監督は、どうしても伝えたかったメッセージを、ある種のエゴのようにこの映画に込めた。

 

この辺り、新海誠監督が君の名は。の大ヒットの後に『天気の子』で伝えたメッセージにも近いものを感じた。

 

「さぁ、あなたはどう生きる?」

口だけじゃなくて、行動で示してみなよ。

 

 

老若男女が観る夏の大作映画において、細田守監督自らが、本作のような挑戦的なメッセージを突きつけたことが、まさしくテーマを体現していた。

 

それにしても、中村佳穂の歌声には圧倒された。